ナインハーフ(1985年アメリカ)
9 1/2 Weeks
80年代はこういうのがオシャレに映った時代だったのかもしれないけど・・・
本作のことが好きな人には大変申し訳ないが...僕にはまったく理解できない世界だった・・・。
監督のエイドリアン・ラインはギリギリのところを攻めてくるディレクターで、
個人的には87年の『危険な情事』とか02年の『運命の女』なんかは、どちらかと言えば支持してるんだけど、
この映画で描かれたこと、アプローチ、その全てがどうしても理解できない...というか、受け入れられない。
どこかに良いところはあるはず、と思うようにしていて、そりゃスタイリッシュに映るところもあるんだけど、
これを「いや〜、良い経験したね☆」なんて、お世辞にも言えないですよ。こりゃ、異常な“恋愛”としか思えない。
若き日のミッキー・ロークもキム・ベイシンガーもお互いに美しさが光っている。
主演カップルがこの2人だったからこそ、ファッショナブルに見えたということもあっただろうとは思う。
しかし、どうしても...この2人のある種の異様な恋愛をファッショナブルに見せようという意図がよく分からない。
お互いに「好きもの同士」なら別に好きにやればいい。しかし、本作で描かれた内容は決してそうではなかった。
それをあたかも、ツラい別れであるかのような雰囲気で終わらせること自体、
僕には理解不能なところがあるし、特にミッキー・ローク演じる証券マンのジョンの存在は、なんとお不気味に映った。
そうであるがゆえに、ヒロインがどうしていつまでもジョンと一緒にいるのかも、まったく理解できるところがない。
そもそもがジョンと最初に出会うシーンからして、どことなくジョンの表情が気持ち悪く見えてしまった。
衝撃的な出会いと言えばそうなのかもしれませんが、ニューヨークでもバリバリ働くバツイチ女性というヒロインから、
何故にジョンに惹かれたのかが分かるようで分からず、あんなニヤケ顔でなくとも良かったと思っちゃった時点で
おそらく僕には合わない映画だったのだろう。まぁ、ミッキー・ロークがセクシーに見える時代だったからなのだろうけど。
まぁ、お互いに惹かれ合ってデートするようになって肉体関係を結ぶところまでは理解できたとしても、
最初っからジョンの性的嗜好が結構な倒錯趣味で、いきなり目隠して氷を使うなんてアブンーマル感丸出しでしょう。
どこからどう見ても、普通に愛し合うカップルという感じじゃないから、ジョンの危うさがよく出ている。
これは倫理観がどうじゃなく、性的嗜好なわけですけど、それがヒロインにとって衝撃的な体験だったのかもしれない。
それが忘れられなくてジョンとの関係にドップリとハマってしまったということなのかもしれないけど、説得力がない。
べつに本作はポルノフィルムじゃないから、そんなのを映す必要はないけれども、
ジョンとの初夜がどれだけヒロインにとって衝撃的なものだったのかが、しっかり映像で示すことができていたのなら、
自分の中では映画の印象が変わってたのかもしれませんが、本作を観る限りでは、どうしてハマったのか分からない。
それどころか、お互いに盛り上がれば、どこでも愛し合っちゃう奔放さが次々と描かれますが、
そこはいいとしても、割りと早い段階から「お前、オレの引き出しを見ただろ」と言われ、「お仕置きだ」と真顔になり、
ジョンから同意しているとは言い難い性的暴行に近いプレイを仕掛けられ、普通のカップルならここで終焉でしょう。
それでも許しちゃうヒロインの精神性もよく分からないのですが、これは現代で言う「共依存」に近いのかもしれません。
オマケに「相談に乗ってくれ。最近、オレの悩みが深いんだ。興奮できないんだ」と告白され、
例えそれが本音だったとしても、そんなこと言われたら女性側から見てもショックだろうし、不和につながりうることなのに
ジョンはと言えば、ヒロインを連れて、嬉しそうにムチを店で品定めするなんて、もはや正気の沙汰には見えない。
この異様さに気付いていたヒロインが、それでも離れないというのはほぼほぼDVの構図と一緒だとしか思えない。
だからこそ、前述したように映画の最後に顔をクシャクシャにして泣きじゃくるヒロインの心理が複雑過ぎて、
「いや〜、大変だったけど、良い経験だったね〜」なんて簡単に流せるラストではないし、エイドリアン・ラインの
独特な美的センスが炸裂する恋愛映画だった、では片付けられない強烈なハラスメントにしか僕には観えなかった。
そういうことを描いた映画なら、まだ納得できるんです。でも、作り手の本意はそうじゃないですよね。
これがツラい恋愛経験で片付けられるのは時代なのかもしれませんが、僕には2000年代前半に最初に観たときも
異様な映画だったという印象でしかないし、性虐待を受けた女を男の視点で描いた作品としか見えなかったのですね。
もうね...ムチを嬉々として品定めするミッキー・ロークの姿は異様でしかないですよ・・・(苦笑)。
言っちゃあ悪いけど、最初っから気持ち悪い表情で近づいて来た男がいきなり目隠して氷を使ったプレイして、
キレイな女性が“目覚めちゃう”なんて、あり得ないですよ。所詮は男にとって都合のいいストーリーという気がする。
ヒロインも本能的には“M”だったということなのでしょうけど、半分、ジョンとの関係に戸惑ってましたからね。
そりゃそうですよ。ジョンの要求が次第にエスカレートしていくという映画ではあるけど、最初っから異様ですからね。
エイドリアン・ラインがどういうつもりで描いていたのかは分かりませんが、言わばジョンは最初っから街で“獲物”を
狙っていたわけで、その狙いに引っ掛かったのがヒロインだったというわけで、ジョンの「愛している」という言葉に
説得力は無いですよね。単に自分の性的欲求を満たしてくれる相手を探していただけに見えてしまいます。
まぁ、お互いにそうだったのであれば、そういうサッパリした関係を描いた映画でいいんですけどね、
少なくともヒロインは離婚の傷も癒え切ってない中で、純粋な恋愛を求めていたことは明白だったわけですからね。
だからこそ、最初にジョンを信じたヒロインからすれば、このエスカレーションに思い違いだったのかもしれないと
感じるわけですが、彼女の中にあった「別れなければ・・・」という想いをより強くさせる要因として、
ヒロインが勤務する画廊で開かれた個展を兼ねたパーティーで、孤立する画家を見て悟るというシーンがあります。
これも主旨は分かるんだけど、あんまりメイン・ストーリーと上手くつながっていないように感じられるのも致命的。
完全に精神のバランスを崩しかけてしまって、自ら行動するしかないと思うわけなのですが、
それでも女々しくしてくるジョンは気持ち悪いし、本当にあれで関係を終わらせられるのか正直、疑問なんですけどね。
現代なら、猛烈な暴力男かストーカーに発展する姿を描いているだろうと思えるくらい、異常性を感じるんですよね。
まぁ、音楽は良いですよね。適度なアート性とファッション性を残しつつ、映画のオシャレ感を彩っている。
ブライアン・フェリーの Slave To Love(スレイヴ・トゥ・ラヴ)なんかは、まるでこの映画のためにあるような曲ですし。
どことなくバブリーな空気感を出すにあたって、見事にマッチしてますけど、個人的には映画の出来が残念過ぎました。
結局は僕には、この映画でエイドリアン・ラインが何をどう描きたかったのかが、よく分からなかったんですよね。
せっかくのミッキー・ロークもキム・ベイシンガーも、お互いに良い時期に出演した作品なだけに、これでは可哀想だ。
それから、ウォール街の金融ブローカーとして働くジョンという設定ですが、
彼がどれだけ有能なビジネスマンなのかもほぼほぼ描かれず、普段何しているのかも分からないから、
てっきりジョンは身分を偽っているのかと思ってしまったけど、ホントに多額の収入のあるリッチな男なんですね。
今やヤッピーという言葉は死語ですけど、この時代ならヤッピーなのかと思いきや、
その割りにジョンは日常的に乱痴気パーティーに興じているわけでもなく、誰かと狂気じみた生活を送るわけでもなく、
あくまで一匹狼なんですね。とすると、この時代にあってもジョンは孤独な男で異端児だったということなのかも。
だったら尚更、ヒロインはヤバい男と知り合ってしまったということで、もっと早く気付いて欲しかったですね(笑)。
残念ながらエイドリアン・ラインの監督作品は嫌いではないけれども、本作は賛同できなかったなぁ。
若いときはそこまで思わなかったけれども、映画の中盤にあるような冷蔵庫前で
2人がイチャつくシーンで、目隠ししたヒロインに食べ物やら飲み物やら、ハチミツやらゼリーやらを食べさせるという、
ある種の“調教”を描くのですが、このシーンなんかも実際にやられたら後始末が大変だろうなぁと思っちゃう。
もう、こんなことを思っちゃう時点で自分がどれだけ年をとったかを悟るのですが、
若気の至りと言えばそうなのですが、ヒロインはバツイチというそれなりに恋愛経験があるという設定ですし、
ジョンも自分の性的欲求を満たしてくれる女性を探しているという感じですからね。若気の至りと言うには、厳しい(笑)。
ミッキー・ロークもまんざらじゃなかったのか、この手の路線の映画、何本か出演しているようで
何故か90年代に製作された本作の続編にしても、彼は出演しているんですね。むしろノリノリだったのかな?
(上映時間110分)
私の採点★★☆☆☆☆☆☆☆☆〜2点
監督 エイドリアン・ライン
製作 アンソニー・ルーファス・アイザック
キース・バリッシュ
原作 エリザベス・マクニール
脚本 パトリシア・ノップ
ザルマン・キング
撮影 ピーター・ビジウ
音楽 ジャック・ニッチェ
出演 ミッキー・ローク
キム・ベイシンガー
マーガレット・ホイットン
ドワイト・ワイスト
カレン・ヤング
クリスティーン・バランスキー
1986年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(キム・ベイシンガー) ノミネート
1986年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(パトリシア・ノップ、ザルマン・キング) ノミネート
1986年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主題歌賞 ノミネート